the

BRAND-ING

DIALOGUE

現在進行形で変化し続ける
彼女たちとの対話の記録

宇治の茶舗から生まれた新しい風

Interview 02

Naho Hasegawa / 茶舗 ゆと葉

京都宇治の地に新たな風を吹き込むように誕生した「茶舗 ゆと葉」。江戸時代から、長年家族でお茶を育ててきたオーナーが、自らの想いを込めて生まれ変わらせたお店です。伝統ある宇治のお茶を次世代につなぐために、新しいスタイルを取り入れた「茶舗 ゆと葉」は、これまでとは異なる客層を惹きつけ、まるで未来への扉を開いたかのような変化を遂げました。
ブランディングを通じて、彼女がどのようにお店を進化させ、どんな変化を感じているのか——その歩みを追いました。

こうなったらいいな…と
思い描いた未来が現実に

「お客様の層がすごく変わり、イメージしていたお客さまが来てくださるようになりました」とオーナーの長谷川奈穂さんは話します。

以前は、近隣の、お茶好きの年配の方が中心でしたが、今では同世代の女性や若い世代も増え、わざわざ遠方から来られる方も多くなりました。

「ギフトに選びたい」「すてきなお店だから入ってみたい」と訪れる人々。店に一歩足を踏み入れた瞬間、その世界観に惹き込まれる。そして、詳しく話を聞くうちに、お茶に対する興味が深まり、気づけば手に取っている。

「以前は、仏事やビジネスの用途が多かったのですが、今は『大切な人にプレゼントしたい』と購入してくださる方が増えました。」

これまでも、「とてもおいしいお茶」とはよく言ってもらえるものの、インスタグラムでシェアされることはほとんどなかったそう。でも、今では「こんな素敵なお店があるよ」「こんなかわいいパッケージだった」と投稿してくれる人が増え、それがまた新しいお客様を呼んでいます。

zと、夫婦で何度も話していた「理想の姿」が、目の前の現実になったことに、驚きと感動を隠せないといいます。

余計なものを削ぎ落としたからこそ
伝わる美しさ

大きな変化のひとつが、ラッピングの簡素化でした。 以前も、もちろんプロのデザイナーさんに頼んで制作したオリジナルのパッケージで並べていました。 でも「さらに、包んでほしい」「箱に入れて欲しい」と言われることが多く、手間も資材もかかっていました。 ですが、今回のブランディングを進める中で、全体を貫くコンセプトに沿って、パッケージやラッピングのあり方を再考した結果、よりシンプルな形にシフトしていきました。

「正直、最初は不安でした。手を抜いたと思われないか、と。」

でも、それは杞憂に終わりました。むしろ「そのままで美しいから」と、シンプルなパッケージのまま持ち帰るお客様が増えたのです。

「中身のお茶は変わっていないのですが、見せ方を変えたことで、伝わるべきものが、ちゃんと伝わるようになったんだと思います。」

さらに、店頭に並べられた商品を手に取る際、商品を扱うお客様の所作までが美しく変化したことに、奈穂さんご自身、驚いたと言います。

人が集まる場所に、
自然と生まれる流れ

来店者も増え、店内の滞在時間も長くなったそうです。
ある日、ひとりの男性が2時間ほど店に滞在していました。静かにお茶を楽しみ、スタッフと会話を交わし、最後に「いい時間を過ごせました」と笑顔で帰っていかれたそう。

「お店のつくりや動線が、ちゃんと機能しているんだなと実感しました」

以前は、お店に入ると大きなテーブルがあり、農家の営むお茶屋のあたたかさ感じるものの、商品を選ぶ際はテーブルを避けながら壁際に並んだ商品を、背中にお店のスタッフの視線を感じながら選ぶことになって、自由にゆっくりできる感じではなかった、と振り返ります。

今は、店内をゆったりとお客様のペースで見て回ることができ、季節感を感じながら、商品の違いなどを知り、好みの商品を選ぶことができます。

改装前のお店と改装中の様子↓

パッケージが視覚的に分かりやすくなったことで、「こんなお茶もあったんだ」とリピーターが改めて商品に気づくことも増えたといいます。

結果として、客数も売上も倍以上に増加。客単価も向上し、色々な種類のお茶を組み合わせていくつも購入するお客様が増えたといいます。それでも、営業日は減らすことができ、オーナーである奈穂さんご自身が「お店にずっといたくなる」空間へと進化したのです。

「いろいろやってみる」のではなく、「大切にするものを研ぎ澄ます」ことで、ビジネスの形が洗練され、より効率的に回るようになりました。

「本当に伝えたいこと」に
集中できるようになった

「ブランディングを通して、余計な情報を削ぎ落とすことができ、本当に伝えたいことが明確になりました。」

奈穂さんはそう語ります。インスタグラムやWebサイトを通じて、コラボレーションの依頼が増え、海外を含む遠方からの問い合わせも増加。各種のメディアも、以前は費用を支払い掲載依頼をすることもありましたが、今では取材の申し込みが来るようになりました。

取材や質問を受ける機会が増えましたが、話すことに迷いがなくなったといいます。お店をオープンし、お客様と接していく中で、「ブランドの基盤がしっかり整っていたんだ」と実感できたそうです。

「ブランディングの初期段階で、自らの思いなどを言語化するプロセスがあるのですが、実は、正直けっこう大変でした(笑)。でも、そのプロセスを経たことで、本当に伝えたいことが明確になったと、今は確信しています。」

さらに、不思議と「思いをきちんと理解してくれる人」とのつながりが自然と生まれるようになったといいます。

「お問い合わせがあっても、コンセプトを伝えれば『合わない』とすぐに分かることが増えました。無駄な時間を費やすことがなくなり、本当に繋がりたい人とだけ繋がれるようになったと感じています。」

「一気に広がらなくてもいい。むしろ、しっかりと共感できる人と、小さく確実に繋がることが大切」と考えるようになり、今では「気持ちのいい人とだけ繋がれている」と実感できるようになったといいます。

お店で使用している茶器を購入できるように販売も行っている。それら備品や商品のセレクトもすべてブランドコンセプトに基づいて行った。

思考の整理が、
店舗運営のスムーズさにつながる

ブランディングを通じて思考が整理され、「何を伝え、何をしないか」が明確になったことで、店舗の運営にも良い影響が現れました。

「小さなお店ほど、小回りが利く分、ブレるのも早い。でも、一度整理できると、自分で判断できるようになるんです。」

考え方がシンプルになると、店舗の裏側や備品の整理までスムーズに回り始める。無駄なものを減らし、本当に必要なことに集中できるようになったことで、経営の迷いも少なくなったといいます。

「お店をやっていると、つい色々手を広げたくなります。でも、今は『本当に伝えたいこと』に集中できるようになりました。」

以前は「どうしたらもっと広められるか」と多方面で試行錯誤を重ねていましたが、その分の時間をひとつの決まった方向に集中して投下することができ、無駄な時間が減りました。

ブランディングを経て、伝えるべきことが明確になり、シンプルに考えられるようになったことで、店舗経営そのものがスムーズになっていったのです。

ブランドがつなぐ、人と未来

「このお店自体は10年続けてきたけど、正直しんどいこともありました。でも、ブランディングを通じて、自分の価値観と事業をしっかり重ねることで、自然と必要な人と繋がれるようになったんです。いまやっていることが幸せだと思えること。それが成功だと感じます。」

宇治の伝統製法での抹茶碾茶づくりは、ほんとうに手間のかかるものです。でも、だからこそ伝える必要性があるし、伝える価値があるとも言えます。

「この店があることで、お茶を手に取る人が増えて、その人たちが大切な人に伝えてくれる。それが、私たちが目指す未来につながると思うんです。」

もうすぐ息子さんが家業に加わるそう。 「彼らが『楽しい』と思えるような形にしていきたい」。と奈穂さんは次の10年を見つめていました。

「実は、ブランディングを考えることは、自分自身を見つめ直すことでもあったなと思います。どんなお店にしたいのか、どうありたいのかをじっくり考えることで、余計な迷いがなくなりました。」

以前は「自分はこうあるべき」と無理をしていたこともあった。しかし、「そうじゃなくていい」と気づけたことで、心が軽くなったといいます。

「ブランドを生み出したのは私。でも、ブランドからもらうものの方が、実は多いのかもしれません。」

10年前の自分に声をかけるなら——。

「宇治にいながら、全国、そして世界からたくさんの人が来てくれる。素敵なご縁をもらい、楽しくやっているよ!」

奈穂さんのその言葉が、「茶舗 ゆと葉」が生み出した、新しい未来を象徴しているように感じられました。たくさんの笑顔とともに、今日も「茶舗 ゆと葉」は宇治の地で静かに佇んでいます。

インタビューと文:目黒 洋子
写真撮影:渡邉 まり子
改装前のお店の写真協力:長谷川榮製茶場
改装中の様子の写真:目黒 洋子

the Brand

「茶舗 ゆと葉」は、京都宇治の地に江戸時代からつづく碾茶農家がいとなむお茶のセレクトショップです。 自園「⻑谷川榮製茶場」の上質な抹茶、碾茶商品を通して、365日のあなたに寄り添います。

Brand site / Online store
https://chaho-yutoha.com/

Instagram
@chaho_yutoha

長谷川 奈穂
「茶舗 ゆと葉」
ブランドディレクター

江戸天保年間より続く宇治碾茶農家である「長谷川榮製茶場」の六代目である夫のサポートする傍ら、自園が栽培製茶まで手がける宇治碾茶・抹茶をより多くの人に届けたいと、すでに存在していた茶舗のリブランディングを担当。
まもなく後継ぎとして事業に参画予定の息子を含む2人の息子の母でもある。

megropressでは、「ブランドを見直し、整え直す」リブランディングプログラムをご提供しています。

無料のブランディング相談もございます。
ご興味ある方はどうぞご覧ください。

“Re-Brand Your Business”

自分のブランドを見直したいブランドオーナーのためのプログラム