自分が「この仕事をする」理由を明確に見出す方法

日本語の「生きがい」という概念を「IKIGAI」として広く世界に紹介したのは、2016年に発表された『Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』という本だと思います。

フランスとスペインの作家によって書かれ、その後も様々な言語に翻訳され、世界的にベストセラーになっりました。その後、茂木健一郎さんによっても『IKIGAI』が海外で出版され、逆輸入という形で翻訳本として出版され話題となりました。

image source : MIM online store

「生きがい」という言葉は、日本人にとってはあまりにも聞き慣れた言葉で、「いくつになっても生きがいをもって…」という感じで、とくに年齢の高い人たちの間で交わされる言葉のような気がしていました。

さまざまなIKIGAIの話がされるなかで、茂木さんを代表とするような、日本人が持つ「小さな喜びから始まるもの」という感覚よりも、海外のビジネスやマインドの分野では、もっと積極的で力強い考え方として扱われているように感じます。

スモールビジネスの起業という文脈のなかでも、このIKIGAIのコンセプトに重ね、「自分の仕事をしていく」ときの大切なことについて、多くの人が熱く語っています。

IKIGAIというコンセプトは、4つの重なる円で説明されます。
一つ一つの円はそれぞれ
1)好きなこと
2)得意なこと
3)世界が必要とすること
4)対価をもらえることを示しています。

そして、それぞれの重なりにも意味があります。


1)好きなこと、2)得意なことの重なり
→「情熱」:ずっとやり続けていられる


2)得意なこと、3)世界が必要とすることの重なり
→「使命」:自分の才能を世の中に活かし世の中の役に立つことができる

3)世界が必要とすること、4)対価をもらえることの重なり
→「天職」:自分がやるだけで感謝されお金ももらえる

4)対価をもらえること、1)好きなことの重なり
→「専門職」:”好きこそ物の上手なれ”で高いレベルで提供できる
となります。

そして、この4つが全て重なる中心の部分が「IKIGAI」、つまり、The reason to liveー生きる理由となる、と説明されます。

改めてこの「IKIGAI」という逆輸入されたコンセプトを見ると、ひとりの人が仕事を通して、自分を社会に対して提示し、誰かの役に立つことで、自らの成長や喜びにつなげていくことのできる大きな可能性を感じることができます。

そして、誰しもが、この4つの円の重なる部分を持っています。

みな、さまざまな方法でこの4つの重なりを探す旅をしているのだと思います。
このIKIGAI CHARTは、それを俯瞰的に見ることのできるひとつの視点となりえますし、今という時代に生きている自分だからこそ何ができるのか、自分を内側と外側から見つめるきっかけになります。

すでに自分の仕事をし始めていたとしても、何かが気になって突っ走れなかったり、明確さが足りないと感じた時、このIKIGAIのチャートに立ち戻ることは、とても有用だと思います。

シンプルだけど、とても深い自分の理解につながると思ったので、このIKIGAIコンセプトを使って、自分がこの仕事をする理由を明確に見出すことができるよう、ワークシートを用意しました。ぜひご活用ください。

 

IKIGAI WORKSHEETの使い方

スムーズに取り組める、おすすめの順番をご紹介すると同時に、具体的な事例の参考として、私の場合を書いてみますので、よかったら参考にしてみてください。

出力して、手書きで書くのをお勧めします。
4つの円の重なりを今見出せなくても、それぞれの円の中の要素を書き留めておくことが大切です。


取り組む順番は、
1)好きなこと
2)得意なこと
3)世の中が必要としていること
4)対価をもらえること
の順で考えるとスムーズです。

さて、ひとつひとつ見ていきましょう。

まずは、自分自身に目を向けていきます。

1)最初に「好きなこと」を書いてみましょう。

仕事とは関係なく、自分の好きなことをたくさん挙げてみましょう。 どういう時に自分の目が輝き、没頭しているかを思い出してみます。

私の場合:

  • 紙のテクスチュアやさまざまな色の組み合わせを楽しむこと

  • 線画のイラストハンドライティングなど、ペンと紙で書くこと

  • 活版印刷で何かをつくること→複雑な作業や細かい作業でもできる

  • 海外の方とのコミュニケーション、特に活版印刷など大好きなニッチな分野で話が盛り上がること

  • 季節やテーマ性を感じながら、色や紙の種類を選んで手紙を書いたり、ギフトを選んだり、テーブルセッティングをすること

などなど

2)そして、次に「得意なこと」を書いてみます。

人よりも抵抗なくできてしまうこと、友人の中での役回りや働く中での自分の傾向を思い出します。子どもの頃ほめられたことや、人から言われたことなども思い返してみます。小さなことでも良いです。メモする気持ちで書いていきましょう。

私の場合:

  • 初対面の人と話すことや、難しいことをわかりやすく説明すること

  • 子どもよりも、おじいちゃん、おばあちゃんと話すこと

  • 人の雰囲気を感じて掴むこと

  • 小さなイラストをささっと描いたり、ハンドライティングの文字を書くこと

  • 耳コピでメロディをピアノで弾くこと

  • ものの片付け、一定の法則に沿って美しく整えること

などなど


好きなこと、得意なことから見えること

ここまでの2つは、子どもの頃の経験に強く紐づいているところが大きいです。

私の絵や書くことなどへの興味は、書や筆で絵をずっと書いていた祖父、服のデザイン画を描いていた母、企画書を夜な夜なリビングでグラフ用紙に書いていた父の姿が影響していると思いますし、活版印刷や海外の人とのコミュニケーションについても、友人がカリフォルニアにいたため度々訪ねていたことや、その際に現地で活版印刷と出会ったなど、海外とのつながりから活版印刷へと線が続いています。若い頃に英語を話せるようになりたい!と思っていたことも、英語への積極性につながり、色濃く影響しています。

得意なことに入れている、こどもよりも年配の方と話す方が良いというのも、幼い頃、大人12人の中で子どもが私ひとり、という親戚家族の環境で育ったことも影響していそうです。なので、目上の方とのコミュニケーションは自然と臆することなくできます。

また、人の雰囲気を感じて掴むことが得意ということも、母がファッションデザインの仕事をしていたので、服についての細かな知識やバランス、コンビネーションについての持論をことあるごとに聞いていたという背景も影響して、誰かと会うとその人が着ていた装いはディテールまで覚えています。どのようなスタイルのカテゴリの人なのか、というのを素早く把握できるようになったので、いま、ブランディングの仕事のなかで、その人の素敵さがどこに宿っているのかを見抜くということができるのだと思います。

このような感じで、子どものころの体験は、今の自分に色濃く反映されていることがわかります。 家族や友人、先生との関係や、住んでいた環境や地理的な条件、習い事、取り組んだことなどがすべて、「すべてが私になっている」ことを感じます。

構成するパーツとその組み合わせが同じ人はまったくいない、ということが実感できますよね。「個性」はみなに等しくあるものなのです。

ここまで、自分についてたくさん考えてきました。
ここからは、外側へと目を向けていきましょう。

3)「世の中が必要としていること」を考えてみましょう。

ビジネスをする上で、マーケットの状況や大きな時流やトレンドについてリサーチすると思いますが、そういった外部のマクロ的な要素を把握することにも近いです。でもすべてではなく、現実に起こっている現象や予兆のなかから、自分のメガネで選び取ったものがここに上がってくると言えます。

自分のフィルターが入っているということは、いま世の中がどうなっていると感じているのか、どのような方向にいくと思うのか?という問いへの自分なりの答えも見つけられるでしょう。

さらには、どのような形で自分は社会貢献ができるのか?、また、どのような世界を望んでいるのか?という自分のビジョンにも繋がります。

私の場合:

  • 人と人とのコミュニケーションの活性化

  • 共感、思いやり、想像力を誰もが持つこと

  • 本気本心からの環境への配慮

  • 女性性が尊ばれた形の女性の活躍

  • 地元や地域などローカルなものへの愛情

  • 個人レベルでのインターナショナルなコミュニティ

などなど

最後に、4)「対価をもらえること」を考えてみましょう。

自分の得意なことで挙げたものや、これまで仕事としてやってきたことをベースに考えるとわかりやすいと思います。機能や技術として切り出すことで、サービスや業務として成立するものを考えていきます。

私の場合:

  • イラストや手描き文字提供

  • 手紙の代筆

  • 誕生日パーティーなどのコーディネート

  • Webデザイン、グラフィックデザイン

  • ビジネスの方向性の相談

  • 活版印刷でもものづくり

  • 紙もの制作や印刷ディレクション

  • ライター

  • インタビュアー

  • 情報整理と編集

  • 整理整頓やお片付けの代行

  • 総務事務….

などなど、いろいろと出そうと思えば出てきます。

「世の中が必要としていること」「対価をもらえること」から見えること

私の場合、例えば、誰かのお宅を片付けたり、企業の総務部で働いたり、ということできっと対価をもらうことはできるのだと思います。それで、この円は満たすことができる。でも、残りの3つの円を満たすことができないと思われます。

そして、好きなことや得意なことをしてお金がもらえたら、それは嬉しいことです。でも、自分の持って生まれた才能や使命を活かしきるということにはつながっていません。

誰かの役に立つことや、世の中から望まれること、世の中や社会がもっとよくなるためになることをすることで生まれる喜びは得られません。

今すぐにはこの4つの円の重なりに到達できなくても、イメージしておくことが大切です。イメージできれば、そこに向かって行けるようになります。

ビジネスが大きくなっていくということは、喜びの輪が大きくなるということに他なりません。多くの人がうれしいこと、これがあってよかったと喜べること、幸せになる人が増えていくことを真摯に行なっていくことが、社会がビジネスに期待することであり、そのブランドの存在意義につながるはずです。

IKIGAIという逆輸入コンセプトから考えたこと

誰しも、4つの円を満たすことができるものが必ずあります。

それなのに3つの円が満たされないままでいるなんて、もったいないと思いませんか?

今まで経験してきたこと、未来に対して持つ期待と思いの「すべてが私になっている」のに、それを発揮しないのはもったいないと思いませんか?

「自分の仕事をする」と決めた以上、その仕事を通して、自分の良さや貢献できることを社会に対して提示し、誰かの役に立つことで、自らの成長や喜びにつなげていくことを目指したいものです。

このIKIGAIチャートを使ったワークで、自分自身はなぜいま「この仕事」をしているのかという理由が明確になり、「なんとなく」や「流れで」となっていた部分を「強い確信」に変えてく助けとなればうれしいです。

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