ブランドの本質力とは何か?――LOUIS VUITTONのイベントで見た「語り継がれるブランド」の秘密
少し前のことになりますが、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)の顧客向けイベントに、友人の同行者として参加する機会をいただきました。
普段はなかなか足を踏み入れることのない世界を体感し、美しいものをたくさん見れて本当に楽しかったのですが、それ以上に「ブランドとは何か?」を深く考えるきっかけにもなりました。
この体験を通して得た学びは、ラグジュアリーブランドに限った話ではなく、むしろ、今ブランドを育てているスモールビジネスや個人起業家にとってこそ、大きなヒントになるのでは、と思いました。
今回は、そのイベントで得たインサイトを、私なりにかみ砕いて言語化し、スモールビジネス視点でお届けします。
バッグブランドではなく、「旅の道具」から始まった物語
私が参加したイベントでは、バッグではなく「トランク」が主役でした。今のLOUIS VUITTONのイメージからは少し意外に思えるかもしれませんが、実はこのブランドの原点は「トランク」なのです。
【Louis Vuittonの原点をちょっとおさらい】
創業者Louis Vuitton(1821–1892)が1854年にパリにて創業。
それまで馬車向けに雨が落ちるよう作られていた丸蓋から、汽車移動で効率的に運搬できる「平らな蓋のトランク」を開発し、大ヒット
交通手段の発展に応じて、旅のスタイルを提案し続ける
1914年パリのシャンゼリゼ通りにトラベル・グッズ専門の路面店をオープン
このイベントでは、昔実際に使われていた旅用のトランクが展示されていて(今でも使えそうなくらいで、素材の堅牢性に驚きました…)、そこから派生した「モバイルな家具」としての現代的なトランクが紹介されていました。
開けばクローゼットになったり、ワインセラーとして使えたり、作曲家が旅先で使うためのテーブルや、探検家のためのベッドの収納になっていたり。
そのすべてに共通するのは、「自分の暮らしや美意識を旅先でも持ち運びたい」という願いに寄り添っていること。
LOUIS VUITTONが最初から「ラグジュアリー」を売っていたのではなく、「旅」という行為に向き合い、その延長線上に価値をつくり続けてきたブランドであることがよく伝わってきました。
自分の内側を満たすために選ばれるブランド
今回訪れたLouis Vuittonのイベントで印象的だったのは、展示されていた商品群が、バッグやファッションアイテムではなく、「自宅で使うためのトランク型家具やインテリア」だったという点でした。
それって、「外に持ち出して誰かに見せるためのもの」ではなく、「自分の内側を満たすために存在するもの」ですよね。
ラグジュアリーブランドというと、つい「華やかで別世界の話」として距離を感じてしまいがちですが、今回の展示で感じたのは、「自分のために選ぶ」という在り方は、むしろスモールビジネスが大切にしている価値そのものではないかということでした。
誰かの目を気にして選ぶのではなく、自分の感性や心地よさを軸に「これが好き」と選ぶ。
その選択を支えるストーリーや背景、細部に宿る誠実な仕事。
規模や価格の大小にかかわらず、本質的なブランドの価値提供とは、こういうことなのだと再確認したのです。
細部にまで宿る「手を抜かない姿勢」が信頼になる
トランクはバッグと比べて構造も大きさも複雑です。
だからこそ、細部のあり方をよく見ることができます。縫製、金具の接続部、内側の素材、開閉の手応え…。どこを見ても同じトーンで統一されており、「このブランドは、どこにも手を抜かない」ということがひしひしと伝わってきました。
これは単なる「高品質」という話ではなくて、ブランドの世界観を伝える媒体が商品であるなら、そのすべてに同じフィロソフィーが通っているか?ということが問われているのだと思いました。
「使い方」ではなく、「感情」を語る接客
感動したのは、スタッフの方々の接客でした。
私の友人は福岡から来ていたのですが、その方のために福岡のスタッフが東京の会場に駆けつけており、まさに「お迎え」してくれるような接客でした。
さらに素晴らしかったのは、説明の仕方。
商品のスペックや素材ではなく、「これを家に置くと、どんな気分になるか」「朝この引き出しを開ける時、どんな気持ちになるか」といった、「感情の変化」をこまやかに言葉にしていたのです。
ブランドの世界観を語る力がある人が、現場にいるというのは、ほんとうに大事なことです。想像以上に大きな説得力になります。
改めて思ったのは、ブランドの印象をつくるのは「人」の力だということです。
スタッフの立ち振る舞い、言葉の選び方、表情や距離感……どれも「このブランドが、どんな哲学で動いているか」ということを静かに物語っていました。そして、そのスタッフの誇りある姿勢が、商品以上の価値を生むのだと。
これは、ラグジュアリーブランドだから特別なのではありません。
むしろ、その真のあり方——ブランドの世界観に共感し、「自分ごと」としてその価値を届けようとする姿勢こそが、ブランドを支えるのだと思いました。
ブランドは「語る」から始まり、「体験されて」完成する
このイベントで私が見たのは、ただの高級商品の展示ではなく、「ブランドとは何か?」という問いの答えでした。
語るべきルーツがあること
細部にまで世界観が宿っていること
感情に触れる言葉で語れる人がいること
これらすべてが重なり合って、LOUIS VUITTONというブランドは、いまも選ばれ続けているのだと感じました。
最後に、ここまでの話を「スモールビジネスにとっての学び」ととらえ、チェックポイントにしてみました。
1)あなたのブランドの「原点」はどこにありますか?
商品やサービスの表層ではなく、「なぜこれをやろうと思ったのか?」というルーツを語り続けることがブランドの深みにつながります。言い方を変えれば、そここそが他と差別化される部分だといえます。
2)あなたのサービスの細部にも「一貫した世界観」は宿っていますか?
商品だけでなく、パッケージ、Instagramの投稿文、返信メールの文面に至るまで。「こういう考え方のブランドなんだな」と伝わる一貫性が信頼をつくります。「360°隅々まで行き渡る」という感覚が大事です。
3)自分の商品・サービスについて話すとき、「特徴」や「使い方」ばかりを説明していませんか?
もちろん「どんな商品・サービスであるか」という基本的な説明は必要なのですが、それをたくさん語ることよりも、「それを手にすることで、どんな感情が育つか」「どんな変化が起きるか」を語る力が、選ばれる理由になるのです。自分が変化した後の姿をありありとイメージできたとき、人はそれを手に入れようと決めるのです。丁寧に、ブランドらしい言葉を尽くしていきましょう。
スモールビジネスが、ラグジュアリーに学べることは多い。
今回の体験が、あなたのブランドづくりのヒントになればうれしいです。
素敵だったCosmic Tableのアウトドア版。ロンドンのデザイナーデュオ、Raw Edgesのデザイン。天板のガラスが映り込み美しかった。